綺亜羅のきれいな目に涙がたまっていく。



私はそれを見て、やっと正気に戻った。


しまった……言い過ぎた…。


綺亜羅が悪いことなんてひとつもないのに。



分かってる。

分かってるんだ。


ただちょと綺亜羅の言葉が昔を思い出させて…。



私は小さくため息をついて顔を上げた。


3人がなにか言い出す前に


「……ゴメン。もう今日は帰って。明日、ちゃんと学校行くから」


………。


「………ん」

「分かった」


少し間をおいて綺亜羅と咲斗の声が聞こえた。


彼方は何も言わず、私の目の前に移動してきて、目線を合わせるようにそこに座った。


「蒼空……」

「…………」

「その怪我、自分で手当てできる?」


悲しそうな、悔しそうな目で私の怪我を見つめる。


なんで……?

私の傷だよ…?

なんで彼方がそんなつらそうな顔してるの…?



胸がギュッとなる。


「……大丈夫だから…」


消えそうな声で、けどしっかり彼方を見つめながらそう答える。

すると、彼方も私の目をしっかり見て


「…そっか。……明日、俺ら学校で待ってるからさ。ちゃんと、こいよ?」


そう言って、私の頭をポンポンとたたき、ニッと笑った。


「じゃーな。また明日」


立ち上がった彼方は手を振ってリビングを出て行き、綺亜羅、咲斗も


「バイバイ!」

「バイバイ、蒼空チャン」


そう言って出て行った。


足音が遠ざかり、玄関の閉まる音が虚しく響く。




「………帰った」



私はそう言ってハッと口をおさえた。


自分でも驚くほどその声には寂寥感がつまっていた。



これじゃあ、彼方達が帰ったら寂しいみたいだ。



……寂しい?



「……フンッ……」



そんな感情、とうの昔に捨てたはずだ。



…バカじゃないの。


今更そんな感情ごときに振り回されるなんて。



…ありえない……。




私はゆっくり立つと、まだ3人の匂いが残るリビングをあとにした。