「……俺は信じるよ」
ポツリ、と榊がつぶやく。
「………え?」
「俺は蒼空が言ったこと、信じるって」
榊は微笑んだ。
私は何か言おうと口を開きかけたが、何も言えずうつむく。
……。
……信じるって…そんな。
このときは、榊のこの言葉を信用なんてできなかったけど、ただ…。
榊の言葉は私の心にひとかけら、跡を残したのだった。
「蒼空んち、どこ?」
その声に顔をあげると、あたりはもう薄暗い。
「暗いから、送る」
「いい」
そう言って、少し歩く速度をあげる。すると
「ダメ。俺がヤダ」
そう言って私の隣に並ぶ榊。
送ってくれるのはいいけど…。
「……榊がおそくなるでしょ」
私はそうつぶやいた。
「俺のことはいーって。てか彼方でいーから」
また、榊…彼方は笑った。
……よく笑うな…。
真っ直ぐ前を見る彼方を見つめる。
こんなに人と話したの、久しぶりだ…。
なんでだろ。
いつもはもっと警戒するんだけれど…。
そうこう考えてると、目の前に自分の住んでるマンションが見えてきた。
「ここ、だから」
そう言うと、驚いたように彼方が目の前の建物を見上げる。
「へぇ〜マンショ住みかぁ…」
「ここまでで、いい」
「うん。…えっとさ」
言いにくそうに彼方が視線をそらす。
「………」
その目の逸らし方に妙な違和感を覚え、嫌な予感が頭をよぎる。
「…なんで蒼空って、
ーーーーーー笑わないの?」