誰……?
ここで寝てる奴、初めて見た。

どうしようか…と悩んでいると


「…………ん」


その男が少し目を開け、それから日の光が眩しかったのか目を腕で隠しながらあくびをした。

そして一息ついたところでヘッドホンを外し、片目だけ見えるようにして腕をずらして口を開いた。


「………パンツ、見えるよ。この角度じゃ」


……………………は?


「……そんなに、見つめないで」


……………。


どんだけ自意識過剰なんだよ。
冗談で言ってんの?


喋りたくないな、と思いながらもこのままじゃらちがあかないと思い、冷たく吐き捨てた。


「…どいて」


言っている意味が分からなかったのか、そいつは首をかしげてから下を指差した。


「…ここを?」

「そう、そこ」

「なんで?」

「関係ないでしょ」

「……ん。そっか」


意外とあっさり頷き、そいつは制服をパンパンとはたきながら立ち上がった。


思っていたよりも身長が高く、細身だ。


…180近くあるかな…。


「もう始まってる?入学式」


無造作にはねているじぶんの髪をなでつけながら、そいつは私を見て言った。


コクリと頷く。


「そっか。じゃあ俺、そろそろいかないと」

「…………」


そう言って、そいつは"よいしょっ"と言いながらはしごを使わず、ここから飛び降りた。

猫みたいにストンと着地をし、私に後ろ向きに手を振りながら屋上を出て行った。



何だったの…?一体。



私はそいつが出て行ったドアを見つめ、首を傾げる。けれどすぐに眠気のせいでどうでもよくなりその場に横になった。



日差しが心地よく降り注ぎ、数分もしないうちに、うとうとしてくる。


ん…?


半分眠っているなかで、日頃ここではしない甘い匂いを感じた。


さっきの…奴か……。


久しぶりに私に嫌悪の眼差しを向けない人と喋ったたからか、いつもは一度みただけの人の顔なんてすぐ忘れてしまうのになぜか、さっきのやつの顔だけは半分眠っていても思い出せる程、深く私の心に印象に残っていた。