☆ハイローハート

「日本語話すドラキュラ伯爵なんてウソ丸出しじゃんよ」

(そーゆう問題じゃないんだってば)と、今度は何度も首を振った


「チューしてくれたらおんぶして運んでやる」

「いい、歩く」

ナルからちょっと距離をとったけれど、一人にされては怖いので腕だけはつかんだまま

だけど、ナルの一言のおかげでちょっと冷静になった


「引っ張ってやるから、薄目でやり過ごせ」

薄目にすると、そのアタシの顔を覗き込んできて吹き出す失礼な男の腕を渾身の力で握り締める

「イタタ、はい、行くよー」

の合図とともに、ものすごい早足でナルは進み始めた

バッタンだの、ドッタンだの、“助けて”だの声が聞こえてきても、すごいスピードで通過していくから何も怖くない

……というか、これなら薄目にしなくても大丈夫だよね

目をぱっちり開けようとしたとき、ナルが「はい、ゴール」とピッと立ち止まった

安心して目をあけると、目の前に大きな鏡……
が、突然真っ暗になって向こう側から苦悶の表情の人形がドンドンドンドンと鏡を叩くから、隣のナルに思わず抱きついた

……ビビリすぎて声が出ん……

何がおもしろいのか、ナルの体がふるえてて笑っているのがわかる

離れようとすると、「ダーメ」と抱き寄せられてほっぺたが合わさった

耳元で「やっぱ、かわいい」って囁かれて、その腕の中から逃れようと腕を突っ張ると、その腕をとられてふわっと何かが唇に触れて離れていく

「さ、今度はほんとのゴール」

ナルがアタシの手を引いたまま、黒のカーテンをくぐる

直射日光がコンクリートに反射して、まぶたを直撃するから思わず目をとじて足を止めた

ナルの手が離れていく感覚

ゆっくり目を開くと、少し先に待っているあこととよきの方へと向かって歩いているナルの派手なシャツが見えた

……アイツ、どさくさにまぎれてチューしやがった