☆ハイローハート

「確かに、ちょっとだけ久々
よく自転車ではすれ違ってたのに」

「偶然って難しいね」

「……フフッ、偶然は、偶然やもんね
で、今日はこんなところで何の用事があったん??」

公園内にあるベンチに腰掛けると、国坂くんは両手をポケットにつっこんで近くの滑り台にもたれかかった

「なんだろう、何にしよう?」

「ええ?」

「ここに来るまで色々考えたんだけど、思いつかないな」

「……」

「……ってこと」


国坂くんの言葉は、たまにアタシをものすごく照れさせる

照れ隠しに両手で髪を整えると「あの……うん、……ありがと」と小さく答えた

メガネの奥のキツそうな瞳
だけど、アタシを見る目は全然怖くなんかなくて
彼は目を逸らさないから、アタシが思わず視線を下げてしまった

キレイなローファーに公園の砂がついている

「いつも、すっごいキレイな靴」

「ああ、これは父のポリシーで」

「へえ……」

「“乱れのない装いは、乱れのない精神を生む”」

「……すごい」

「ベテラン主婦よりキレイにシャツにアイロンかける自信あるから」

対抗馬がベテラン主婦とは……

と少し笑った


しばらく他愛のない話をしていたけれど

夜に公園で遊ぶ子供はいないという理由からか、陽が沈むと暗くて国坂くんの表情もちょっと見えにくい


「そろそろ帰ろうか
送っていく」

「家そこやけど」


アタシ達が動き出すと、背後の木の陰の草が鳴った