その時だった。

「杏樹!」

聞き覚えのある声が、私を呼んだ。

間違える訳がない。

大好きな人のその声を、私が間違える訳がない。

ベランダに身を乗り出せば、
「祐二!」

大好きな人がそこにいた。

昨日と同じスーツを着た祐二が、そこで私を見つめている。

「待ってろ!」

祐二はそれだけ言うと、こっちに向かって走ってきた。

程なくして、チャイムの音が鳴った。

私は急いで玄関に走ると、ドアを開けた。

すぐに開いたドアと、躰に温もりが伝わった。

ああ、私はこの人じゃなきゃダメなんだ…。

この人以外、何も考えられないんだ…。