外に出ると風が少し冷たかった。



『寒っ』思わず私が小さく言葉をこぼすと、



『手つないだろか?』と、振り向きもせずに前を向いたまま彼が言った。



私は冗談だと受け取り、



『ポケットに手を入れとくから大丈夫です』


笑って答えた。



『手つないでくれたら俺もあったかいのになー』


彼も笑って言った。



彼と手をつないでみたい。


温かい手なんだろうな。


そんな風な思いを抱きながら、彼の手を見つめながら歩いた。


ゆっくり歩く彼。


私の歩くペースに合わせてくれているのが分かった。


嬉しかった。


駐車場に着き彼の車に乗り込むと、



『どうする?そのまま帰る?』



と彼に聞かれ、言葉の意味が分からない私。



『帰らないんですか?』



真顔で聞く私に彼はちょっと眉を下げて微笑んで、



『ブラッとドライブぐらいするかなと思ったんで』と、答えた。



後から分かったこと。



彼はちょっと気まずく思ったり、困ったなと思ったりすると、敬語になる。



『じゃあ、ブラッとドライブします』と、私はもちろん敬語で答えた。



彼は『じゃあ行きましょか』と、何故か少し照れたようにアクセルを踏んだ。



あてもなくドライブ。



私の今までの人生にはなかった出来ごと。



嬉しくて、ちょっと恥ずかしくて、それが何だか心地良かった。



『星キレイな』



彼に言われ車のフロントガラスから体を前のめりに空を見上げると、星が綺麗に輝いていた。



『綺麗』



私がつぶやくと、



『実久ちゃんの方が綺麗やで。とか言ってみるー』



と、おどけたように笑う彼の言葉に、ちょっと笑った。


そして突然の彼の言葉に、驚く。



『最近キスしてないなぁ....してみる?』



予想していなかった言葉に私は言葉が出ず、とりあえず笑ってごまかした。



彼は私を見ないまま。


私の反応を伺っているのは何となく分かっていた。