『何食べたい?』



『あ、何でもいいです。ゴメンなさい』



『ん?何でゴメン?』



『あ、私いつも選べなくて。優柔不断でいつも何でもいいって言ってしまうから、そういうのって困りますよね?』



申し訳なさそうに私が言うと、



『全然。じゃあ俺が決めたらいいことやろ?』と、サラッと彼は言って、



『ここでいいか?』


と私の方を向き、私が頷くと居酒屋のドアを開け、私を先に通してくれた。



やっぱり大人。



席に着くと、『適当に頼んで大丈夫か?』と注文をしてくれ、彼は色んな話しをしてくれた。



色んな話し。



家族以外の色んな話し。



彼の優しい表情。


タバコを吸う彼の指。


私を見て微笑む彼の瞳。



全てが私をドキドキさせた。



『なぁ、実久ちゃんって何で俺と同じ年やのに、俺に敬語で喋んの?』



『初め会ったとき年上かと思ってたんで、敬語で話してたら....そのまま』



『じゃあ今は同じって分かったんやから、タメで話したらいいのに』



『んー、もう敬語がクセになってしまってるんで、ちょっとずつ変えていけたら変えてみます!!』



『何やソレ、やっぱり実久ちゃんって面白いな』



そう言って彼.....浩(ひろ)は大きく笑った。



浩正(ひろまさ)。


それが彼の名前。


彼は家族の話しをしない。


私も何も聞かなかった。



知りたい気持ちはあったけれど、彼が話さない限りは聞かない方がいい。


そんな気さえしていた。



『ちゃんと食べたか?お腹いっぱいになった?』



からっぽになったお皿を見ながら彼が言った。



『はい。なりました』



『また敬語!!』と彼はすかさずツッコミ、ニカッと笑って、



『じゃあ出よか?』と席を立った。



私も笑いながら席を立った。