君が愛した教室


「せっかくだから、この参考書を読んだ成果でも聞こうかな?」

そんな悪戯のような吉原先生の口調で、先生と私の補習は始まった。

「えぇと………結果、わかんないです。」

自信満々に答えた私に、先生は爆笑だった。

「お前……やるなあ。」

「駄目ですか?」

ちょっと不安になった。

「いやいや、逆。分からない事ははっきり言ってくれた方が後になって二度同じ説明するよりはましかな。」

まし……か。
じゃあやっぱ駄目なんじゃん。
ふくれてる私に先生はまた笑った。

「そうなるなって。ちゃんと授業はしてやるから。」

「じゃあ……自由落下から。」

「はいはい。」


そう言って先生はポケットからビー玉の様なキラキラ光る玉を取り出し、自分の前に静止させた。

玉はこの教室にもかすかに入る日差しによってその表情を変えた。


そして先生は、静止させていた玉をゆっくりと手から離した。

玉は小さく床で跳ねた後そのまま床をコロコロと転がった。

「今のが自由落下。何も速さを与えなくても、静かに離しただけで、重力によって落ちてったろ?」

「……うん。」

ただ物が落ちたってだけなのに、なんだか幻想的な気分だった。
なんだろ…これ。


「不思議だろ?」

「………え?」

唖然としてる私に、先生は転がる玉を拾い上げながら話してくれた。


「俺はこれに何も力を与えてないし、逆にこれが自発的に動いた訳でもない。なのに、物は落ちるんだ。俺達にとっては、ただ必然的に。でも、この物からしてみれば、それは偶然なのかもしれない。」

「深い……ですね。」

正直さっぱりだったけど、会話を途切れさせないように相づちを打った。


「人の出会いも、そうなのかもしれないな。」

「何がですか?」

「必然的って事。
例えばさ、今の俺からしてみりゃお前と出会ったことなんてただの偶然としか思わねぇ。お前だってそうだろ?」

「……はい。」

「でも、未来の…いや、もっと。来世の俺達からしてみれば、この出会いもまた…必然なのかもしれない。」

あまりにも先生の真剣な眼差しに、一瞬吸い込まれそうになった。

落ち着いてた私の鼓動が、急になんだか高鳴り始めた。