大輝はペンチを眺めるだけで、それを使う気配はない。
大輝の右横に、彼女である由美が腰を下ろした。
いつもスカートでも構わずあぐらをかく彼女も、この時はピリピリした空気を読んでか、正座を崩したような形で座った。
「なぁ、大輝」
右横の気配と自分を呼ぶ声でペンチから顔を離し、由美を見る。
「…ペナルティー、やろう」
しっかりした声とは対照的に、由美は泣きそうな表情だった。
唇を震わせ、いつもはキリッとしている眉毛も下がっている。
いつもの、皆を笑わせている由美ではなかった。
「か…簡単な事やないけど、やっぱ、死ぬよりは…」
途切れ途切れで、最後はごにょごにょと濁しながら言った。
はっきり言うのは、なんだか気が引けた。
その言葉を聞いて、大輝も口を開く。
「死ぬよりは、良い?そう言いたいのか?」
驚くほど低い声だった。
まるで別人のように。
由美も驚いたようで、何も答えなかった。
大輝は、さっきまで青白かった顔を紅潮させて怒鳴った。
「そんな簡単に言うなよ!!ならお前は、爪剥がせんのか!!?」
由美は泣いているのか、下を向いて両手で顔を覆っていた。
そして、ごく小さな声で呟いた。
「…大輝が死ぬなんて…いやや…」
"死ぬ"
ペナルティーをやらなければ死ぬなんてことは分かっていたのに、その単語が出た瞬間、よりリアルに感じた。
同時に、拓海が虐殺されているシーンが脳裏に浮かび、ゾッとした。
俺も、あんなふうになるのだろうか。

