凛side
俯いている女を見下ろすと、次第に顔が上がってきて、目を赤くしたまま目を丸くしていた。
俺は好物のまんじゅうの匂いを嗅ぎつけて、催促するとあっさりと差し出してきた。
不思議な奴だった。
俺を知らない人間。すごく気が楽だった。
俺と何の変わりもなく接してくれることに、すごく嬉しかった。
お前は、どういう奴なんだ?
名前を呼ばれて、心の奥底がじんわり熱くなったことに気が付いた。
お前は、他の人間と違うのか?
(………紫、苑)
いつか名前を呼びたいと思った。
(…そういえばあのまんじゅう、俺の食いさしって分かってんのか?)
そんなことを思いながら俺はアイツの隣に並んで、家に帰ることにした。
