大江戸恋愛記


凛side



言った後じゃ遅いと分かっていても、どうすることも出来ない。



俺はゆっくりと目を閉じて、当分は家に帰らないでおこうと思った。








ザッザッザ……






誰かがこちらに向かってくる音を聞いて俺はパッと目を開いた。



もしかして…ババァか?


俺は上半身を起こして耳をすました。






…でも、聞こえてきたのはババァの声じゃなかった。






『…ここにいるの?』


『…!』



聞こえてきたのは、恐る恐る尋ねてくる、あの女の声だった。

俺は驚いて体を揺らすが、無言のままその場にとどまり、いないフリをした。



それで女が行ってくれればいいと思っていたのに。



女は行くことはなく、語りかけてきた。


弱々しくて、消え入りそうな声だったけど、俺は一つも聞き逃すことなく女の言葉を耳に入れた。


女は、俺に謝った。

俺はテメェが謝ることねぇだろ、って心の中で呟いた。


その後に女がぽつぽつと話しだした。



俺は女のことを知らねぇが、何かに対して泣いていることは分かった。




ああ、最初に見た時も、ここで泣いてやがったな。





最初も今も、女の涙の匂いが強かった。






俺はゆっくりと地に降りた。