大江戸恋愛記

凛side


俺は木の上で声をかけた後、女の近くに飛び降りた。


相変わらず木の上を見ていた女に、鈍くせぇ奴と小さく呟いてからこっちを向けという意味を込めて再び声をかけた。



その女は、俺を見るなり驚いた顔をした。



そんなのは慣れている。俺を気味悪がり、拒絶されることなんてとっくに。


俺は尋ねた。何者だと。


すると女は俺の質問に応えずに、耳を見て尚更驚いた顔をした。


何でそんなに驚く。俺のこと知ってるんだろ?



その後も質問をするが女は一向に応えず、挙げ句の果てには俺の耳に触ってきやがった。


ふざけんな!たかが人間が気軽に触んな!





でも俺は正直、驚いた。

俺に触る人間なんて、ここ数十年いなかったから。


普通の人間は俺なんかに近付かないし、話もかけないし、というか俺が人間と触れ合うことに虫酸が走る。



だが女はいとも簡単に俺に近付いてきやがった。


何故だか知らねぇが、振り払おうとは思わなかった。







コイツは他の人間とは違う。


…そう俺の直感が告げた。




その後ババァが探しにきやがったから逃げたけど、ずっと考えていた。




(結局、あの女が何者か分からなかったじゃねぇか)







俺は別の高い木に移って、そこからの景色を眺めながら思った。


















『コイツ。適当に寝かせとけよババァ』

『言われんくてもそうするつもりじゃ』




俺は死妖を倒した。

ババァが死妖と戦ってたのを木から傍観してたけど、また死妖が動いているのが目に見えた。


…ババァ、爪が甘いんだよ。



心の中でそう呟いた瞬間、さっきの女が死妖の方に走って行くのが見えた。


『…何してんだアイツ』


必死に走って行く方向を見ると、ガキが死妖の近くにいた。


…んだ、アイツたかがガキのためにあんなに必死になってんのかよ。