「あ……」


急に目の前に現れた相手に私は目を丸くした。

あまりにも急だったから何を言おうか私がおろおろしていると、ズイッと私の前に手が差し出された。


「ん」

「…ん?」

「ババァのまんじゅう。あんだろ?」

「あ…はい」



言われるまで忘れてた。
私は手に持っていたまんじゅうを相手に差し出した。

するとおもむろに包みを外してかぶりついた。


おお…いい食べっぷりだ。

なんて感心してる私は自分で自分に苦笑いして、相手を眺めた。


するとその視線に気付いたのか食べるのを止め、ボソッと呟きを漏らした。


「…やらねーぞ」

「いらねーよ」



…つい同じ口調で返してしまった。



「テメェまんじゅう馬鹿にすんなよ」

「してないけど、つい」

大きなまんじゅうをほっぺたいっぱいに詰めている相手に思わず笑ってしまった。



「…何笑ってんだよ」

「いや、まんじゅう好きなんだなって」



クスクス笑うと、ピタリとまんじゅうを食べるのをやめてその場に座り込んだ相手に合わせて、私はしゃがみ込んだ。


「…おい、見んなよ食べにくいだろうが」

「そんな見てない」


そう指摘され、無意識に見ていたのだろうかと思ったら何か、急に恥ずかしくなって顔を反らした。


しばらくの沈黙が流れる。

何か言おうと思って私が口を開いた直後、相手の声によって遮られた。



「…このまんじゅう」

「……?」

「ババァの手作りなんだよ」


ゆっくりと相手を見た。もうまんじゅうは、あと一口大くらいになっている。
そのまんじゅうに向ける相手の眼差しは、すごく優しく見えた。