私は木に背を預けて、そのまま地面に腰を下ろした。



「私ね、怖かったの。知らない土地に来て知らない怪物に出会って、どうしてこうなっちゃったんだろうって。でも、梅ばぁちゃんが私に優しくしてくれて、すごく心細くなくなった」


三角座りをして膝をかかえている手を握り直してから再び言葉を紡いだ。


「でも、所詮見ず知らずの女だよ、私は。あなたに消えろって言われたって当たり前。…でもね、何処へ行っても私が否定されそうで、すごく怖かった。どうしようもなかった。信じてくれなさそうで、…でも梅ばぁちゃんは信じてくれたの、私のこと」


そこまで言って、何か込み上げるものがあって私は膝に顔を埋めた。


「っ…その優しさに甘えてたんだと思う。手放したくなくて、あなたの言葉にムキになって反論して…馬鹿みたい」


頬に流れた涙を慌てて拭って、涙声を隠すようにちょっと大きめな明るい声で言葉を発した。


「あ、でも明日には出て行くつもり。今すぐとは言わなくてごめん。…お世話になりっぱなしで、私は何も出来ないんだけど」


涙が出て鼻をすすり、立ち上がると再び声をかけた。



「色々とごめんね。あなたには迷惑はかけないから、明日の朝まで……」


そう言いかけた時、金木犀の香りが一層強くなった。



「……え?」




足元から上へと目線を上げる。








そこにいたのは、









相変わらず仏頂面したアイツだった。