「ちょ、ちょっと、聞いてるの?」
見た目は黒髪王子の不審者は、やっぱりただの変質者だった。
起きたと思ったらいきなりほっぺにキスされたし。
なぜか私と前から知り合いみたいに接してくるし。
でもこんなイケメン、記憶にない。絶対、ないもん。
人が真剣に質問しているのも平気に無視して鏡を見たと思ったら、まるで変なものでも見たように鏡に手を触れてぼーっとしだしてしまった。
こっちが心配になるほど、魂が抜けたみたいな顔して。
「あの…大丈夫……?」
「……ぁ、亜子、俺のこと、分かる…よね…?」
話しかけたら、ようやくこっちの世界に戻ってきたのか、泣き出しそうな顔でまたわけの分からない質問を吹っかけられてしまった。
「分かるもなにも…初対面じゃないの…。誰かと勘違いしてるんじゃないの?」
思ったことをそのまま言っただけなのだが、さらに悲しそうな顔にさせてしまった。
耳やしっぽでも付いてたら、ぺたんって下がるのが見えただろうなって思うほどに。
