「っちょ、せんぱいっ」


実際より長く時を感じていた。
はっと我に返った亜子は更に頬に朱を滲ませる。


「あんまりにも誘うような目してるからだよ?」


にっと満足そうに笑った咲斗が、次の瞬間には全く見えなくなった。


「えっ?!…よ、ヨウ!!?」


急に現れて佐土先輩を突き飛ばしたヨウが、間に割り込む形で冷たく私を見下ろしていた。


「…帰るよ」


いつもみたいな笑顔は一切見せないまま、私の手をひいて店を出ようとするヨウ。
周りの皆も驚いた表情でこちらを見ていたのが分かった。



「おい、ちょっと待てよ」


「さ、佐土先輩…ごめんなさ…」


「なんで亜子ちゃんが謝んの?」
「なに亜子謝ってんの?」

後を追ってきた先輩と、手だけは握り続けているヨウがほぼ同じタイミングで声を出した。
じとっと二人から睨まれて萎縮する。


「お前、亜子ちゃんの何なの?」


「お前には関係ない。亜子は俺のだ」


「へぇ?亜子ちゃんは彼氏いないっていってたけど」


笑みを見せた佐土先輩に、ヨウは一瞬顔を歪めてチラッと私を見た。


「まっ、今日は亜子ちゃんも疲れてるだろうしちゃんと送ってあげてよ。但し俺の顔に傷付けた借りはきっちり返してもらうから」


泥棒ネコ、と小さく漏らして咲斗は店内へと戻って行った。