ずっと黙って亜子の言葉を聞いていたヨウは、話が終わったと分かると亜子をじっと見つめてこう言った。


「本当に亜子は俺が昨日まで黒猫のクロだったって、信じられるの?」

ずっと至近距離で目を合わせているのが恥ずかしくなった亜子は目を逸らしながら言う。

「…信じられるかっていわれるとやっぱりまだちょっと…。なんとなくそんな気がしたことは確かだけど、絶対そうだとは思えない。ドッキリでした、なんて言われたらやっぱりそうだよねって思っちゃうと思う」


「なら亜子はどうしたら信じられる?もちろん俺の口からは何も言えないよ。亜子が自分自身で考えて」


少し憂いを帯びた瞳が私に訴えかける。
クロだって分かるには、どうすればいい?
クロっていえば、クロっていえば…。


「っあ」


思わず声に出てしまうほど、簡単なところにヒントはあった。


「ちょっとしゃがんで!」


そういうと腰を少し曲げて、私の目線と同じところまで顔が降りてきた。
いささか近すぎる距離に戸惑う隙が出来ないうちに、耳にかかった髪の毛を除ける。
左耳に、痣のようになって傷痕がある。
これはやっぱり、クロにもあったもの…。



「私…、こんな夢みたいなこと信じて馬鹿って言われるかもしれないけど…でも絶対あなたはクロだって信じれるよ。…ねぇ、クロなんでしょ?」


私がそう言うと、クロは優しく笑った。