「満も今日は部活?」
「う、うん」
「じゃあ、一緒に帰れるな。」
「‥!」
「部室の前で待ってて。行くから。」
「わ、分かった‥!」


遠くから聞こえてくるように、音がぼやけていく。



「(こんな会話、したことない)」



2人を見ながら、2人には1ミリも重ならない映像が頭の中を流れ始めた。


――‥あ、紫音。
――‥彰!今日は部か、つ‥
――‥あ、彼女さんだぁ!こんにちはぁ
――‥こんにち、は
――‥紫音、さっきなんか言った?
――‥な、でも‥ない
――‥彰ぁ、早く行こぉっ
――‥ああ。‥じゃあ
――‥うん、また明日、ね



「‥」


昔は苦しくて苦しくて、涙を堪えるために噛んでいた下唇には歯型だけが増えた。

それは3日経った今でさえ、止まることを知らない。




「ごめん、満。ちょっと先行くね」



満からの声は聞かず、言いたいことだけ言って、その場を立ち去る。



唇の傷痕は意味もなく、涙は溜まる、落ちる。




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