それは机を移動している途中で起きた、悠太が机を持ってコンクリ-トの中廊下の中間まで来たとき、熊坂先生が女の子に何か言っている。いつものように感情を押し殺した顔で、冷たく女の子に指示しているようだ。
「徐さん!あなたは次の学期から学校に来なくていいわ。」
「えっ、でも父ちゃんが・・・」
「あなたは、ここの学校に通うべきじゃないのよ!」
「あなたの家の事情は知っているわ、私はもう来て欲しくないのよ!」
 悠太は少し離れた所から様子を見ていた、徐さんに何かキツイ事を言っている事は判ったが、内容まではまだ小さな悠太には理解できない。
 徐さんは熊坂先生から離れて、中庭にあるブランコの方に走って行ったのを、悠太は気になって仕方が無かった。
(どうしたんだろう、先生に何を言われたのか悠太には想像もできなかった。)
(そういえば、あの子が遅刻した時にも、あんな風な事を言われていた。)

回想
 授業が始まる一時限目の時に、出席を取った後に、徐さんに先生が言っていた。
「出席を取ります。呼ばれた人は大きな声で返事をしてください。」
一人一人名前を呼ばれて、全員の出席をとった後に意外な事が起こった。
「先生、わたしの名前が呼ばれていません!」
「えっ、あなたは!名前は何て言うの?」
「徐です。徐 美姫です。」
「えっ、あなたの名前は、ああ、今日はそこに居てもいいわ。」

 数日して、徐さんが遅刻して登校した時、教室の扉を開けた時にも同じような事を言われていた。
ガラガラガラ
「あら、だぁれ、あなたはもう来なくてもいいって行ったでしょう。」
「でも、父ちゃんが学校に行けって、叩くから・・・来ました。」
もう授業が始まっていたので、熊坂先生はそれ以上話を続けるのを避けて、徐さんを教室に入れそのまま授業は再開した。