「あなたはもういいから、こっちに来なさい。」
「ごめんなさい、あなたをこんなに遅くまで残すつもりは無かったの。」
「あの子の為に、こうなったから、・・・早く帰りなさい。」
　熊坂先生は女の子にそう言うと、歩いていた女の子を悠太より先に返したが、それより話の内容がおかしい、「残すつもりは無い」とか、「あの子の為にこうなった」とか、奇妙な事を言っている。
　悠太はまだ歩かされていた、女の子が帰った後も１週２週と歩かされている、悠太は心の中は、不安で仕方が無くて、それに随分心細かった。
「チョット止まりなさい！秋月くん！」
「いい加減な事をするとどうなるか解かっているでしょうね」
「バシッ」
　熊坂先生は、悠太を許すどころか、きつく叱咤して悠太の太股あたりに平手うちを思いっきり喰らわせた。悠太はもう帰れると思ったのに、先生はまだ許してくれない、どうしてだろう自分だけが残されるのは何故だろうと思った。
　悠太は、叩かれた太股を、時々手で擦りながら歩いた。日も沈みかけていて、窓から見える校庭はもう薄暗くなっている、こんなに遅くまで家に帰らないのは初めてだった。
　熊坂先生は、悠太をそのままにして黙って教室を出て行ってが、悠太は言われたとおりに教室を歩いている。心の中では、もうベソをかきそうだったが、しかしジッと耐えて悠太は黙って歩いていた。
カタカタ、ガラガラ、バタン！
「あら、あなたまだいたの？」
「一人で何しているの！」
　熊坂先生は、教室に戻ってくるなり悠太に話しかけて、そして今までの事がなかったような言い方だが、すぐに態度が戻って、７歳の悠太に教師にあるまじき事を言い出した。
「こっちへ来なさい！早くこっちへ来なさい！言う事が聞けないの！！」