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手術当日、

午前9時50分。


「道重さーん、
 そろそろお時間ですので」


看護師さんがやってくる。


「待ってるからね!」

「がんばって!」


そうやって送り出されて、
オリンピック選手の
壮行会みたいだなぁ。


自動ドアの向こうの律は、
ちょっと緊張気味な表情で
私を出迎えてくれた。


「律、手術中に
 倒れちゃだめだからね?」

「ばっか!;」


半分マジな話だけど…
きっと律も成長してるはず。


「そうだ、コレ」


左手の薬指。

1年前に慌てて買った
結婚指輪。

そっと外して律に渡す。


「持ってて」


仕事上指輪ができない律は
いつもチェーンに通して
首からかけて持ってる。

そこに、私の指輪も。


「結婚してくれてありがとう」

「…最後の言葉みたいに
 言うんじゃねぇよ…」


律の声が震えてた。


「絶対、
 絶対大丈夫だから…!」