「あの手術法が…
 唯一の希望なんです」

「…道重先生」


何もできない自分が悔しくて
泣きそうになる。

吉岡先生は
そんなオレに静かに言った。


「来週、シアトルで学会がある。
 同じ研究チームだった日本人が
 もう一人いるんだが、
 そいつが今回発表するテーマは
 もう少し進んでると思う。
 聴きに行ってくるか?」

「…行きたいです!」

「英語、大丈夫か?」

「それなりには…
 一応大学では優とってました」

「なら大丈夫だな」


これはきっと、
吉岡先生の優しさ。

本当は手術したいって
思ってくれてるんじゃないかって、
そう思った。


「澤田幸夫。
 むこうには連絡しておくよ。
 あと、心臓外科部長に挨拶と、
 聴講後の学術研究会忘れんなよ」

「げっ!!発表あるんですか!?」


つまりは、
学会で発表された内容を
みんなに解説するってこと。


「当たり前だろ。
 医局の金でアメリカまで飛ぶんだ。
 聴いてきたことを生かす、
 それが学会に参加するってことだよ」


聴いてきたことを生かす…

って、
もしかして吉岡先生、
それを狙って…!?

自分がやると波が立つからって
オレを利用してんのか!?

吉岡先生、
優しそうに見えて
なかなか計算高いな…。