ICUに行くと
柚希のおとうさんとおかあさん。

オレが近くにいながら
こんなことになってしまって、
合わす顔もない。

お義母さんが言う。


「律くん、大丈夫?
 あんまり寝てないんでしょ?」


柚希とそっくりなお母さん。

柚希の面影が切なくなる。



両親が帰ったあとも、
イスに座って柚希の顔を眺める。

息が苦しいって言ってた時より
表情が楽そうになった。

今日も懲りずに糸結び。

無心になれるから。

とにかく何も考えたくなくて、
ひたすら結ぶ。

気が付くと糸だらけ。

外科医の基本は糸結びだって、
大学の頃教授が言ってた。

ちょっとでも上手くなりたい。

いい外科医になることが、
オレの目標であり
柚希の夢でもあったから。

凝り性なところは柚希に
ヤバイって言われるけど…
性格なんだから仕方ない。



現場に戻してもらってからも
仕事終わったらICUに直行して、
柚希に向かって独り言。

きっと、
こういうとき柚希なら
「大丈夫だよ」って
言ってくれるんだろうな。

きっと大丈夫。

そう信じて、

今日は10本。

そういうノルマを勝手に課して、
また結び始める。