「ちょっと金足りねーんだ。貸してよ」


渉が、他校の生徒に手を出した。



あの学園祭の後、渉は荒れに荒れた。


喧嘩の回数も増えたし、カツアゲも増えた。
あまり飲まない酒にも手を出している。


それを秀二は黙って見てる他なかった。



「……金貸せっていってんだろ」



ガシャン、とそばにあったごみ箱を蹴り飛ばす。


他校の生徒は震え上がっている。



もうすぐ殴るな。



秀二は直感した。



「八嶋渉」



ふいに後ろから声がして、渉は振り向く。



背の高い男性だ。


くせっ毛の茶髪に髪と同色の瞳。
派手な赤いロングコート以外見れば、顔も整った顔立ちで背も高い、容姿は完璧だ。


男がそばに寄ってくる。



渉は一瞬身構えた。


「カツアゲ中悪いんだけど。ちょっと話があってな」


そう言って腕を掴まれて無理矢理連れていかれる。


「離せよっ」


振りほどこうとしたが、びくともしない。



殴りかかると、片手で止められた。



「暴れんな。……真央のことだ」



ぴたりと渉の動きが止まる。





真央?





何故真央の名前を知っている?



この男はなんだ?





目線を送ると、黙ってついてこいと目で促された。



渉は黙ってついていくことにした。





秀二はその光景を、影から見守っていた。