「……昔の慧吾は普通だったんだ。
中学のころは付き合ってる時期も
あったし、普通に話してた。
…でも中3のころに、親が離婚して
母親が家を出て行ったの。
それからは父親と2人暮らし」
離婚…。
うちの家には全く結びつかない言葉。
「…離婚の原因は?」
「……暴力」
あこちゃんが言ったその言葉に、
今はお風呂に入っているはずなのに、
体がブルッと震える。
「――暴力…。
それって――」
「父親の暴力よ。
結婚前までは無かったんだけど、
結婚して慧吾が生まれたとたん、
人が変わったようにお酒を飲んで、
少しの嫌なことだけで暴力……」
「…川崎くんもうけてたってこと?」
自分で言いながらも、
想像しただけでぞっとする。
――怖い…、そう思う。
「ううん。慧吾は大丈夫だったわ。
母親が自分はどうなろうと、
慧吾だけは守ってたの」
「そう……」
あこちゃんの言葉に
少しホッとする。
「でも、母親は父親の暴力に耐えられず、
慧吾をおいて家を出て行ったわ」
「…えっ?
お母さんは守ってたんじゃ…」
「限界もあるのよ。
その後の川崎家は荒れてたよ。
いとこのあたしでも、慧吾に
話しかけれなかったし…。
暴力は母親がいなくなったから、
今度は慧吾に向けられた」
うそ……。
そう思いたかったけど、
話しているあこちゃんの強い瞳が、
嘘じゃないと言っている。

