ヒトノモノ


会社に着くと、啓介はすぐさまあたしの傍に来た。




あたしは啓介をジッと見つめる。




啓介もあたしを見つめた。




啓介は上の歯で下唇を噛みしめる。




これは、啓介が何か言いたい時の癖。




その仕草にあたしはフッと笑ってしまった。





「おはようございます。木村さん。」




「あ・・おはよう。あのさ・・ちょっといいかな・・」




「はい。大丈夫です。」




あたしはそう返事をして、机の上の資料を手に取った。




今から仕事話をしてきますよっていうまわりへのアピール。







そして、あたしたちは使われていない会議室に入って鍵をしめる。




この会議室は防音設備もしっかりしているので、多少声を荒げても大丈夫だろう。




資料を会議室のテーブルに置いて、あたしは啓介をみた。





「・・で?なんですか?」




今朝のアレはなんですか?と聞かないところがいやらしい。




「あ・・今朝の事なんだけど・・・ごめん。」




「何に対して謝ってるの??」




「嫁が勝手に電話に出たから・・・」






あたしが謝って欲しいのはそんな事じゃない。