ヒトノモノ




また啓介の顔色が変わる。



「あ・・あぁ・・。」



奥さんは後ろに隠れたままで、チラっとこちらを見てわずかに頭を下げただけだった。




・・・挨拶くらいしなさいよ。奥さんの態度にムカムカしてくる。




「木村さんにはいつもお世話になっております。」




あたしはいろんな意味を込めて、笑顔で言った。




「えぇ?!こんな綺麗な子がお前の会社にいるんかよ?!羨ましいなぁ・・・」




啓介の友達があたしを見て言った。




あたしは「いえ・・そんな」と俯く。






「二名でお待ちの田中様・・・」




お店の人に呼ばれて、双方が別れの挨拶をする。




「では、また・・」




「あぁ・・・」




あたしは軽く会釈をして啓介の横を通り過ぎる。




店内から多くの人が出てきたのもあって、入り口付近がごった返す。




その勢いで啓介と肩が触れ合う。




その瞬間、あたしの右手が啓介の手でギュッと握られたのがわかった。



一瞬のことだったから握り返す時間は無かったが、あたしはチラっと振り返り啓介に微笑んだ。



その後で、啓介の奥さんとも視線が絡んだ。