「あっ……」


離すのかと思いきや、更に恵理夜を引き寄せ、その血液を舐め取った。


「……笑って、いただけますか」


身をかがめ、真っ直ぐに恵理夜を見つめて、春樹は言った。


「笑って」


請うような春樹の瞳。

しかし、恵理夜は美味く微笑むことが出来ずに唇を引き結んだ。

あの少女の、花の咲くような笑みを思い出し、劣等感が胸をつく。


「……どうして、こんなに不器用になっちゃったのかしら」


そうやって目を伏せるその表情は、悲しみを押し隠そうとする子供と同じ表情だった。

変わらないな――と、春樹は幼い恵理夜を追憶しながら思った。