「ブルータス…」
それは、ここミラノで出会った
目下のところのあたしの、恋人。
「アオチュリーナ、待たせたね。」
深いムスクの香りが鼻腔を刺激する
揺らめく青い瞳が印象的な
あたしの心を捕らえて離さない男―…ブルータスだ。
◆
「キミの美貌に」
「アナタの瞳に」
ミュウミュウに別れを告げ
場所を変えてグラスを傾ける。
外で立ち飲み。
日本では考えられない恋人の夜も、もう慣れっこ。
こんなセリフ、舞台がラテンじゃなきゃとても恥ずかしくて言えやしない。
だけど、不思議ね。
この空気、この雰囲気。
濃いやりとりをしないと、負けてしまいそうになるんだもの。
青い夜の 甘い誘惑に。
「ねぇ、初めて会った時のことを、覚えてる?」
「……え?」
「あなたったら、あたしの飲んでるお酒を取り上げたのよ。」
「そうだっけ?」
「そうよ。覚えてないの?」
「過去は、忘れる主義なんだ。」
「都合のいいオトコね。」
「アオチュリーナほどでは、ないよ。」
「……どういう、意味かしら。」
こうやって、言葉のやりとりで
内面をくすぐってくる、このオトコが好きだ。
あたしたちは
お互い―…正体を 隠してる。



