あの、最初に出会った夜に
せめて、彼が怪盗の右腕“ブルーハワイ”だと知っていたら。
こんなに、心を奪われることは、無かっただろうか。
「――…困ったな。今日のアオチュリーナは、なんだかいつもと違うね。もう1杯飲んだら、行こうか。何にする?」
まるで子供をあやす様に、
彼はあたしの肩を抱いて髪を撫でた。
その、甘い声も、
優しく扱う手も、熱く誘う眼差しも
全部、あたしを騙すため――…?
「―――…“ブルー…ハワイ”…」
声を震わせて、そう言った瞬間
騒がしい酒場の雑音も、
後ろで陽気に歌う人々の声も
周りの一切の音が消えて
ふたりの間に無音の緊張が走ったのを
あたしは、忘れない。
あなたの正体は、ブルーハワイ。
あたしの敵、怪盗レッカの右腕。
ここミラノに思い切り溶け込まない
コバルトブルーのカクテルの名前を
あなたは、いま
どんな気持ちで受け止めた――…?



