私はそう言うと、五千円札を出してテーブルに置いた。無表情の樋口一葉が、心なしか笑っている気がする。



席を立って、その場から立ち去ろうとする。



「待てよ」

「いやっ、触らないで!」



腕を彼につかまれた。



もう、男の人に触られることすら嫌だ・・・。



だから、合コンなんて行きたくなかったんだよ。



こんな思い、もう十分。



「俺、高橋 響(タカハシ ヒビキ)っていうの。これ、名刺。ヨロシク~」



私に小さな紙を渡すだけ渡した彼は、その場から去っていった。



何なの、あいつ・・・。



渡された名刺には、『[ホストクラブ sard]高橋 響  ケータイ:090-****-**** 店:***-****』と書いてあった。



ホスト・・・。



通りで、顔がいいと思った。



目は綺麗な茶色だし、髪もうっすら茶色だし。



私にどうしろっていうの?



私は、男の人が大っ嫌いなんだよ?



最低・・・。



私は、今日助けてくれた人に憎しみすら持ち始めていた。



でも、この後の展開なんて、まだ誰も知らなかったんだ。



そう、誰も・・・。