「あのね、これあげる」


そう言って、彼女は薄水色のガラスの欠片のようなものを僕に渡した。


そして、小さな声で言った。


「これはね、涙の欠片。人魚の涙には不思議な力があって、持っている人の願いが叶うの…」



…ほっ、ホントに…


僕は手のひらの欠片をじっと見つめた。


「でも、ほかの人に言ってはだめ。不思議な力がなくなるから…秘密だからね」


「ありがとう。うれしいけど、君が持っていた方がいいんじゃない?だって、君の願いが
叶うでしょ」



「私の願いはだめなんだ。自分の涙の欠片じゃ、残念だけど…」


「そうか。じゃぁ、もう一度、僕は君と一緒に空を飛べますようにってお願いするよ」


「ありがと…また会えるといいな」



「きっと会えるよ…」



夕闇に消えていく彼女の後ろ姿を手の中の欠片を握りしめながらずっと見つめていた。