「なんで…可哀想?蝉を主観にしてるから?」
「え?」
逆に問われた子供は戸惑い。その意味を理解できず、一歩引いた。
「あなたにとってこのストーリーは蝉が主役なの?」
子供の視線は再び曇りだした窓ガラス。
“おしまい”と綴った文字は薄くなっている。
ぼんやりと見える先には先程までカラスが止まっていた木。
細い枝と葉はゆらゆらと風に揺れていた。
「ストーリー?」
“おしまい”と記された文字。
「ふふっ。だってそうでしょ?日常の一幕。僕はカラスを見ていたからカラス視点だったよ。」
再び子供は机に顔を伏せて、何事もなかったように。
もう一人の子供は、何処か納得できない。腑に落ちない表情を浮かべて暫く自問自答。
沈黙を続けていたが。
「ねぇ、」
「今度は何?」
「あなた変わってるって言われない?」
きっとこの空間にいる誰に意見を求めても、蝉が可哀想であるという考えは間違いない。
だから、それは偏見の意味。
「最高の褒め言葉だ。ありがとう。」
嬉しそうに笑って、言われてしまったから。それ以上何も言えなくなってしまった。
机に伏せる子はまた黙って。問いかけた子供は窓の外を眺めて立ち尽くした。