初めて出会ったとき、彼と私は大学生だった。 6年前の3月1日。 つまり今日だ。 早咲きの桜が咲き始めた公園のベンチでのことだった。 私はしがない女子大の三年で、黙って本を読んでいた。 その隣に啓一は座ってきたが、気がつくと食い入るように私を見つめていた。 気にしないように努めていたものの、我慢出来なくなって私は彼に声をかけた。 『あの………何か?』 すると彼はかなりうろたえた様子で、少し戸惑ったあとでやっと口を開いた。