「今、時をかけてきたんだね?」



その言葉に私は頷く。



そう、と言って彼は私の手を引いた。



出会ったベンチまで引っ張られて、ストンと腰を下ろされる。私を座らせた後で啓一も隣に腰掛けた。



「……君は知らないと思うけどね、あの日も3月1日だったんだ」



そう言う彼の横顔を見つめる。



懐かしむように
ゆっくりと啓一は目を閉じた。



「10年前の今日、初めて君に出会った」



私にとってはついさっきの出来事だが、彼にとっては随分昔のことのようだった。