3月1日【短編/企】



その台詞に驚いて
彼を呆然と見つめる。



『……びっくりした。
啓一がお世辞を言うとこなんて今まで見たことないから』



いつだって誰よりも自分に誠実。
人は褒めるけれど、世辞を言うほどお人よしでもない。



それが私の知る啓一だったから。



『……これを世辞と取るなら、貴女も俺をそこまで好きじゃなかったということだ。好きな相手の真意も掴めないのなら』



まだ若い彼の言葉に目を閉じる。



……ああ、啓一だ。



優しいけど、誰より厳しい、あの人の言葉。