3月1日【短編/企】



気付けば、彼の前に私は何も言わずに立っていた。



私に気付いて彼も本から視線をあげる。



視線が絡み合う。



変わってないな、と思った。



きっと高校生のときに出会っていても、私は簡単に彼に堕ちただろう。



『……あの、何か?』



先に口を開いたのは啓一の方だった。



訝しげに私を見つめる啓一。



どうやら彼は私を知らないようだった。



(……ねぇ、何でよ)



貴方は夢の中では、私を知らないフリするの?



現実では嘘を吐いて?



これは私の夢のはずなのに、そうそう上手くコトは運んではくれないみたいだ。