3月1日【短編/企】



「……啓一?」



呟いてみた声は信じられない程かすれていて、自分の耳にもよく届かなかった。



端正な顔立ち。
座ったときに足を組むいつものクセ。
真剣に本に視線を落とす横顔。



少し違うのは前髪がいつもより長くて、学ランを着ていること。



(あたしの夢では、啓一はコスプレが趣味なのかな……)



それとも、と思い当たる。



(この啓一は高校生……?)



自然と足が彼に向かって歩き始める。



サクサクと歩くたびに鳴る草の感触が心地いい。