きみのうた



倉井君が走り去る音が聞こえる。

「はぁ・・・。もう最悪すぎる・・・」

「笹野!」

鍵が開く音がして、急に眩しくて目を閉じる。

「大丈夫か!?怪我してねえか!?」

「大丈夫だよ」

倉井君があたしに近付いて声を掛ける。

「ごめんな、夏帆が・・」

夏帆って言うんだ、あの人・・。

「いーよ、大丈夫。さ、教室戻ろ?」

立ち上がろうとしてもフラフラしてうまく歩けない。

「本当に大丈夫かよ?足、フラフラじゃねえか」

「平気だって。心配し過ぎだって」

倉井君に笑いかけると、倉井君もクスッと笑う。

「智哉!」

体育館倉庫の入り口には先輩が立ってる。

「夏帆、お前のせいだろ」

「やっぱりその人なんでしょ?好きな人は!」

「違うって言ったろ。第一、お前が気にすることなんかじゃねえだろ!」

あたしは立ち上がってふらつく足を無理矢理動かす。

「笹野!どこ行くんだよ!?」

先輩の横で立ち止まる。

「どこって・・教室だよ。修羅場に居合わせたくないんでね、あたしは」

先輩を横目で睨んで

「倉井をいじめたら先輩、許さねえかんな」

倉井君に聞こえるか聞こえないかわからないような声で呟く。

「早く来なよ、倉井君も」

そのまま教室まで歩いて向かった。