「それは、私には、」

「救急車が遅いのよ。

誰もなかなか呼ばなかったわ。」
腕を掴んでる女性が言う。

「それが原因?

もっと詳しくは解らないのか?」
「教えないわ。」

「何で?」

「本当は、こんな風に未来からきた存在と話すことなんかないからよ。」

「…、そうか。

事故の起きた場所は?

それと時間。」

「約束の一時間前に家を出たから9時過ぎ。

場所は家の近くの大きな交差点。」

かな子が答える。

「かな子、時間がないわ。

貴女の時間が動き出すわ。

戻りましょう。」


「待った。」

「何?」

かな子が呼び止めに応じる。

「デート、楽しみだったか?」


「うん!

夜、眠れないくらいに楽しみだった!」


「なら、誘ってよかった。」




かな子の意思が消えた。

「あんたはいかないのか?」

「貴方、かな子が消えたのがわかるの?」

「何となく、な。」

「そう。

私は行くわ。

二度と、貴方にも、かな子にも会わないわ。」

「だったら、最後にあんたの名前、聞いて良いか?」


「時を…。

時を分かつ姫。」

「名前なのか?」

「名前の由来よ。

由来を聞いて、貴方はどんな名前をつけてくれるかしら?」


「時を分かつ姫、か。

じゃあ、常盤姫、とかか?」


女性が微笑む。

「そうね、正解よ。

貴方ならファンタスティックな奇跡を起こせるわよ、きっと。」


「当たり前だ。

俺はハッピーエンドしか認めない。

そして、かな子が居なきゃ、俺のハッピーエンドは訪れない。」

「そう。頑張ってね。」

女性が消えた。