今日から夏合宿だ。
毎年恒例の、朝から晩まで猛練習の過酷な一週間。
場所は、海の見える合宿施設。何年も前からここの施設に決まっているらしい。

施設の近くには、カップルにはもってこいの綺麗な砂浜や、遊歩道がある。
僕たちには関係ないけど…。

筋トレに始まり、走り込みに、投球練習。
お昼ご飯を食べたのもつかの間、すぐにまた練習。
夜ご飯を食べ、べたついた体をシャワーで流し、疲れきっていたのだろう爆睡してしまった。


三日目にもなると、しんどいのは変わりないがだいぶ慣れてきた。
夜ご飯を食べ、シャワーを浴びて、今日はすぐに眠れそうになかったので、こっそり抜け出し散歩してみることにした。
夜の8時じゃ、眠たくないのもしょうがない。

案外簡単に抜け出すことに成功した。


なんて夜風が気持ちいいのだろう。
昼間の暑さが嘘みたいだ。
宝石をちりばめたような星空、寄せては返す波の音。全てが心地いい。

僕は海を眺めながら、しばらく歩いた。
ずいぶん遠くまで来てしまったのか、合宿所の明かりが遠くに見える。

まぁいいか、と思いながら歩いていると、一人の少女に目がとまった。

こんなに心地よく綺麗な海なのに、その少女はなんだか寂しそうに海を見つめていた。

年は僕と同じくらいだろうか。肩より少し長い髪が、寂しげに風になびいている。

何かあったのだろうか。親が病気とか、大切なペットが亡くなったとか…。
気になったが、声をかける勇気のない僕は、そこで引き返し、合宿所に帰ってきた。

次の日、練習をしていてもなぜかあの少女の事が頭から離れない。
頭の片すみで、考えながら練習をしていると…

「危ない!!」

エラーボールが僕めがけて飛んできていた。
他ごとを考えていた僕は、避ける事ができずボールは足に命中し、救護室に運ばれた。

施設の人「大丈夫?あんな所で、ぼーっと突っ立ってたら危ないでしょ。体調でも悪い?」

僕「痛いけど、大丈夫です。ちょっと考え事をしてて…。」

施設の人「今日の練習はもう止めて、部屋で休んどきなさい。」

僕「わかりました…。」

僕は、昼からの練習を休み部屋で一人、暇な時間を過ごすことになった。