朝、ちらほらと、出勤や学校に行く生徒、ランニングをする人々が目立つ頃。
吐く息は白く、蒸気のように上にあがり、溶けるように霧散した。
まわりの木々はといえば、もう春だというのに葉っぱ一枚とつけず風に無音で揺れている。


そんな中で、俺は、寒い外気に打ち勝つためのマフラーをつけ、一息ついて外にでた。
瞬間、寒い風が俺に襲い掛かり、思わず身震いする。
やばい、この寒さは尋常じゃない。ぶっちゃけ、春なのに冬より寒かった。
誰だよ、今日は春一番の暖かい日になるでしょう、とか言ったの。
やっぱり、サボろうかなあと、家の前で考えていたら、


「じろぉぉぉうっっ!!」


春風にのって、たたき付けるような声がした。
「炬燵……」
明るく子供っぽい声からして、すぐに誰のか分かる。
長い茶髪に、まだ幼さ残る顔。肌色はしろく、瞳は黒色の二重。
名前を、月見草 炬燵(つきみぐさ こたつ)という。


俺、寒菊 白卯(かんぎく じろう)の幼なじみである。
炬燵は孤児でありながらも、容姿端麗、文武両道のパーフェクト娘だ。

「おはよ!!奇遇だねっ。一緒に学校いかない?」

奇遇も何も思いっ切り走ってきたじゃないか、と言おうとしたが、寒くて舌の呂律がまわらず頷くだけにした。
頷いた俺に、炬燵が表情を輝かす。

「……とりあえず、おはよ」

俺はマフラーに口を埋もらせながら挨拶を一応返した。

「うんっ。はやく行こっ」
きらきらとした表情で、炬燵が前にでる。

「おぅ、……ん、手紙」

ふと気付けば、ポストに半分軽く入れられた封筒らしきものが入っていた。
……ちゃんと入れてほしい。


溜息を浅くはいて、手紙を手にとり差出人を見ようと裏返すと、――書いていなかった。
封筒は、真っ白で貴族がやるような赤い封蝋が押されている。