ヴァンパイアと人間の恋が
終わりを迎えてから50年


一人の男が
空き家となった古い一軒家の
ベランダに降り立った


三日月を背負った
金髪の男

形の良い唇からは
鋭い牙を光らせ

禍々しさを感じる赤い瞳は
窓越しに部屋を見つめる


ほこりにまみれたその部屋は
部屋の主が居なくなった時のまま


男はゆっくり部屋の中に入る

「こんばんはお姫様。」


妖艶なでも
聞いたもの全てを凍らせるくらい
冷たい声が誰もいない部屋に響いた


『修二。』


でも
部屋に残った懐かしい香と一緒に
彼の耳にはしっかりと声が聞こえる


その声に
答えるかのように彼は頬笑み
窓枠に寄りかかった



三日月は
昔と変わらないまま
その部屋を
彼を…

照らし続けている