泣き虫Memories

声の主は女の子だった。
入り口の前で仁王立ちしている女の子は、凛とした瞳でこちらを見ている。
僕は怖じ気づいて、口が半開きのままの間抜け面。


女の子は、しばらく僕を見据えたあと、ゆっくりと歩み寄ってきた。
今度は一体、何を言われるのかな…。
こ、怖い…。

『お父さんとお母さん、どこかにいっちゃったの?』

拍子抜けした。
さっきの怒号が嘘のような、優しい、優しい口調だった。
『…分からない。』
ぼそっと言った。
『…あ、そう。』
あっさりだなぁ…。
『名前は何ていうの?』『えっと…楓(かえで)っていいます…。』
女の子に圧倒され、つい弱腰になってしまう僕。それを女の子は見逃さず、即座に突っ込まれた。『男だったら、もっと胸はりなさいよ!!』
『ひぃっ』
こ、怖い…。
『まぁ、いいけど。
あたしは亜美。小学2年生。』
え!?2年生?僕とひとつしか変わらないじゃないか…。
あまりにも口調が大人っぽかったので、驚いた。『じゃあ、よろしくね。楓!』
『う、うん。よろしく。』


ばたばた…
白い服を着た女の人が走ってきた。
『どうしたの!? 僕、大丈夫?』
『え?あ、えっと…。』どうやらこの女の人は、僕の泣き声を聞いてやってきたようだ。
僕がうろたえていると、それを見かねた亜美が、『楓のお父さんとお母さん、いなくなっちゃったんだってさ。どこにいるか、知らない?』
と、尋ねた。
『えっと…。そうなの?楓くん。』
女の人は、明らかに困った顔をした。
『あ、はい…。どこにいるか、知りませんか?』女の人は、少し考えたあと、
『…ごめんね。楓くん、亜美ちゃん。私は知らないの。』


昨日のおじさんとおなじだ。