泣き虫Memories

『昨日のいつから覚えてないの?』
『最初からだよ。』
そっか…。と、亜美は再び考え始める。
『あ、じゃあ、一昨日は?』
一昨日…。
そういえば、明日はイブだから家族で出掛ける約束をしたような…。
『じゃあ、昨日はみんなで出掛けたんだろうね。』
うーん。思い出せないけれど、たぶんそうだろう。
『…はっくしょい!!』
それにしても寒い…。
くしゃみが飛び出た。
『あっはっは!大きいくしゃみだなぁ。』
亜美の笑い声も、僕のくしゃみくらい大きかったけど…。
『もっとマフラー上げなよ。』
そう言って、強引に僕のマフラーを引き上げた。
鼻まで覆ったマフラーからは、ふんわり洗剤のいい匂いがする。


どくん。

さっきと同じだ。

どくん。

『…楓?』
亜美の声が遠い。

『マフラー…。』
僕はぽつりと呟く。

『え?』

どくん。

何かがみしみしと軋んでいるような感覚だった。

どくん。

赤いマフラー…。

『ママの…。』

『楓、何か思い出したの!?』
そんな亜美の問い掛けも聞こえなかった。

どくん。どくん。

『ママの…マフラー…?』
僕の首に巻いてある赤いマフラーを、握りしめる。

どくん。どくん。

『それはあたしの…』
亜美が戸惑いながら僕に言うが、

『違うっ!!』

『っ!?』

突然の僕の声に怯え、身を縮ませた。

どくん。どくん。どくん。

『これはママのだっ!!
ママが…っ。ママが、僕に…!パパも…!』

どくん。どくん。どくん。

『昨日…。昨日約束したのに…っ!!』

『か、楓…?』


頭の中の何かが、崩れる音がした。