泣き虫Memories

『うわぁ…。』
先に声をあげたのは、僕だった。

空いっぱいに広がる星。
大きくてまんまるの月が、ぽっかりと浮かんでいる。

『綺麗だね…。僕の家からは、こんなに見えなかったよ。』
亜美は空を見上げたまま、
『違うよ。楓。』
『みんな知らないだけ。』
そう言って、亜美は少し寂しそうに俯いた。
その言葉には、もっと大切な意味が隠されている。そんな気がした。



それから、二人でココアを飲みながら空を見ていた。
話題は、昨日の夜のこと。
『おじさん…じゃなくて、先生もあの看護師さんと同じこと言ってた。』
『マヤちゃんのこと?』
僕はうなずく。
『変だねぇ。先生たちが知らないなんて…。』
亜美は真剣に考えてくれているようだ。
『1日経っても帰ってこないなんて…。それに、楓が何で病院にいるのかも謎だよね。』
すっかり探偵モード。
『病院にいるってことは、怪我とか病気があるってことだよね。』
『僕、どこも悪くないよ?』
そうか…。と、亜美は腕組みをする。
『じゃあ、お父さんとお母さんは?何か悪いところあった?』
『ううん。無い。』
ますます謎が深まったぞ…。と、探偵は悩んでいる。
『じゃあ…。』
亜美は何かひらめいた様子で、
『昨日何かあったとか?』


え…?
『あ、ごめん。楓、昨日のこと忘れちゃったんだっけ?』
僕が気を悪くしたと思ったのか、亜美は謝る。
それに僕は首を振って、
『昨日のこと思い出せば、何か分かるかもしれないね。』
意外な僕の言葉に、亜美は目を丸くした。
でもすぐに、うん、と言って、
『少しずつ、ゆっくり思い出していこう。』