泣き虫Memories

女の人もまた、気まずそうに去っていった。

『知らないみたいだね。マヤちゃんも。』
マヤちゃん?と聞くと、お友達なんだと教えてくれた。
『ここの先生と看護師さんとは、大体知り合いなの。みんないい人だよ!』
先生?看護師さん?
『どうした?楓。』
どうやら、はてなマークが顔に出ていたみたいだ。僕は、素直に聞いてみた。
『…ここは、病院なの?』
『えぇ!?知らなかったの!?』
とんでもなく驚かれてしまった。
『う、うん。気がついたらここにいたんだ…。だから…。』
亜美は、へぇーと興味津々のようだが、僕はなぜ自分が病院にいるのか分からないし、昨日の記憶がすっぽり抜けているのだ。
そのことを亜美に伝えると、なんだか不思議だねと笑った。
『あたし小さいときにね、空からなんでも願いを叶えてくれる妖精が降りてくる絵本を読んだんだ。』
亜美は、僕の目を真っ直ぐ見て、
『楓は…。空から降りてきた妖精なの?』
と、真剣な顔で聞いた。
僕が…妖精?
きょとんとしていると、『あはは!嘘だよ。あたしがそんなおとぎ話、信じるわけ無いじゃん!』
そう笑いながら、僕のおでこを小突いた。
『痛いっ!何するんだよぉ!』
ごめんなさーい!と、わざとらしく亜美があたまを下げた。

それからしばらく話をしたあと、
『今日は朝から騒ぎすぎちゃった!もう朝ごはんの時間だから、帰るね!』
と、帰ろうしたが、何か言い忘れたことがあったのかこちらを振り替えると、
『今日の夜、迎えにくるから、暖かい格好して待ってて!』
『え?どうして?』
と尋ねると、
『お楽しみ!』
楽しそうに亜美は言って、たかたかと駆けていった。