「悪いわね、それじゃ歩美のこと頼んだよ」

と、言い残し、ギャグっぽく敬礼をして千里先生の車は走り去っていった。

俺と歩美さんは駅に残された。

「え、ここまで!?」

千里先生の車が行った方向に向かい一人で言った。ついてっきり歩美さんの家まで送ってくれるもんかと思っていた。

「…………」

隣には歩美さんが顔を赤くして立っている。

「歩美さん」
「ん?」
「千里先生になんて説明した?」
「…………」

歩美さんから返事はない。

「まさか『駅にお母さんが迎えに来る』なんて言ってないよな」
「…………」

歩美さんは口を開かない。絶対に近いこと言ったんだな。

「迎えに来るの?」
「……来るわけないでしょ。年中仕事してるんだし」

え、何で開き直ってんの?この人は。

「ずっと前から、朝にも散々謝られたわ。車を降りる時まで、ね」

歩美さんは誰とも視線を交わすことなく、独り言のように言った。

「……それじゃ行こっか」
「そうね」

俺達は駅の中へと歩いて向かっていった。寒そうだったので俺の制服を歩美さんに貸してあげた。