「っ」
シオリの体が動いて、その瞳に俺を捉えた。
「爽麻…っ」
名前を呼ぶその声が、あまりにも弱々しかった。
「降りてこい!」
そう叫ぶと、シオリは真っ直ぐに胸の中に飛び込んできた。
少し驚いたが、黙って抱きしめる。
…何の涙なのか、分かってしまった気がした。
もしかしたら…シオリは、記憶を取り戻したんじゃないか。
震えている体が、それを表しているように見えて。
でも、気付いてないフリして、普通に接した。
家までの帰り道、シオリはずっと黙っていた。
自分から聞いていいものなのか。
それとも話してくれるのを待つべきなのか。
シオリの隣でそんなことを考えながら歩いていた。


